家族信託のメリットと注意点

kazokusinntaku2

認知症対策にとても有効

家族信託は、将来の認知症による判断能力低下に備えて、財産管理を家族に託すための実務的な手段です。税理士として相続・生前相談を受ける中で、本人の意思確認が取れなくなったことで所有不動産を売却できなくなったり預金の管理がストップしてしまう事例を数多く見てきました。
こうした事態に備えて家族信託を設定しておけば、受託者が継続的に管理できるため、生活費の確保や不動産の運用が滞らず、家族の負担は大幅に軽減されます。平均寿命が伸び続けている日本社会において認知症リスクが避けられない中、家族信託は今後も活用が広がっていくことでしょう。
しかしながら、相続全体の対策としては有効でも、相続税そのものは減らない点を理解した上で活用することが大切です。

家族信託のメリット

家族信託の魅力は、判断能力低下後も財産管理が「止まらない」仕組みを作れる点にあります。賃貸物件を持つ方が認知症になった場合、管理判断の遅れが収益減少につながるかもしれません。こういったケースでは、信託を設定しておけば、受託者が契約更新や修繕の判断を行えるため、資産価値を維持することが可能となります。
特に実務で実感するメリットは次の通りです。

• 意思能力低下後も家族が資産管理を継続できる
• 成年後見制度より柔軟に財産処分ができる
• 不動産の売却・修繕などが滞りなく進められる
• 生活費や医療費の確保がスムーズ

この「柔軟性の高さ」が家族信託の大きな強みであり、認知症対策として高い効果を発揮します。

注意点:節税効果は期待できない

相続対策として人気が高まっている家族信託ですが、節税を目的とした仕組みではありません。信託契約を締結すれば、名義は受託者に変わりますが、信託財産は法律上、あくまで委託者(=受益者)の財産と扱われるため、相続税の評価が下がるわけではないのです。
実務でも「信託すれば相続税が安くなる」と誤解されている方は少なくありませんが、家族信託は相続税対策ではなく、財産管理の体制づくりが主目的です。また、契約書の作成費用や不動産の名義変更にかかる手続きなど、導入時のコストも一定程度発生します。制度の目的と限界を理解したうえで導入しなければ、ケースによってはあまり機能せずに相続を迎えられるかもしれません。

「生前の整理」が成功のカギ

家族信託をより効果的に活用するためには、生前のうちに目的を明確にし、家族間でしっかり話し合っておくことが重要です。
不動産を持つ方であれば、将来的に売却するのか、誰が住み続けるのか、修繕費をどう確保するのかといった点を曖昧にしたまま契約に進むと、受託者が判断に迷い、後のトラブルにつながる可能性があります。
専門家としては、家族信託を検討する段階で「どの資産をどう引き継ぎたいのか」「認知症後に何を優先したいのか」といった具体的な課題を整理しておくことを強くおすすめしています。制度そのものよりも、準備段階の設計が成功を左右すると感じています。

早めに動けば家族の負担は確実に減る

家族信託は、認知症による財産凍結のリスクを避けながら、柔軟な資産管理を可能にする実務的な仕組みです。一方で、相続税対策としての効果はなく、もし相続税も圧縮していきたいようでしたら別の節税策と組み合わせる必要があります。
家族の将来を考えるなら、「いつかではなく今」動くことが大きな差を生みます。当然ですが、本人が認知症になってからでは家族信託を活用することはできないため、家族信託の活用を検討しようと考えている家族は、本人の意思がはっきりしている早い段階で、家族信託を検討すべきです。認知症対策を意識した生前対策として、家族信託は非常に有効な選択肢と言えるでしょう。

【著者プロフィール】長野拓矢(ながのたくや)|長野拓矢税理士事務所 所長
税理士として10年以上のキャリアを有する資産税の専門家。
「家族がもっと幸せになるために相続という場面では何をしたらいいか」そんなお客様の想いに寄り添った対応を心掛けると共に、最新の税制のキャッチャアップを常に行い専門家として何ができるのかを常に考え続けている。
相続だけでなく事業承継にも精通しており、地域経済を担う中小企業の経営者向けに自社株式の承継コンサルを多数行ってきた実績が評価され、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)の専門家としても長年従事している。
長野拓矢税理士事務所 事務所案内|著者紹介ページはこちら