遺言書をめぐるトラブル事例と防止策

遺言書をめぐるトラブル事例と防止策

自筆証書遺言はトラブルのもと

遺言書は「残せば安心」と思われがちですが、残し方を誤ると逆に争いの原因になります。結論として、自筆証書遺言はトラブルのもとになりやすい遺言です。相続の相談現場では、遺言が見つかったことで、そこから事態が急変するケースがあります。
理由はシンプルで、手軽さと引き換えに不備が起きやすいからです。内容が曖昧、保管が甘いといったことがあると、本当にこの遺言書は有効なのか、相続人同士で疑心暗鬼になります。また、形式が整っていないと、その遺言書は無効だと不利な立場にある相続人は主張することでしょう。
そのため、遺言書を作成することはもちろん大事ですが、まず「作成段階」でどうやって遺言書を作成するかといった選択が大切です。

自筆証書遺言が招く三つの典型的トラブル

まず、自筆証書遺言で起こりがちなトラブル事例を整理します。

【事例1 形式不備による無効】

日付を「令和七年春」と曖昧に書いたため無効になった例や、押印を忘れたことで相続人から無効を主張された例があります。財産目録も、パソコンで作成したにもかかわらず各ページに署名押印がなく、目録部分が無効とされたケースがありました。いずれも、全文自書・日付・署名・押印という基本要件を欠いたことが原因です。

【事例2 内容の曖昧さによる争い】

「預金は長男に相続させる」とだけ書かれ口座が特定できなかったり、「自宅は妻へ」と書いたのに登記上は二筆で一部が記載漏れだったりと、内容が正確に特定できないため争いに発展した例があります。本人には明確でも、第三者が一義的に理解できない内容は紛争の火種になります。

【事例3 遺言能力が疑われるケース】

形式も内容も整っていながら、遺言作成の半年後に認知症と診断されたことを理由に「当時すでに判断能力がなかったのでは」と争われた例があります。遺言能力は作成時点で判断されるため、医療記録や介護状況が持ち出され、家族関係が傷つく結果となることもあります。

なぜこれほどトラブルが起こるのか

このように、自筆証書遺言が争いのもとになりやすい理由はシンプルです。法律が求める形式が厳格である一方、作成者がその要求を正確に理解しないまま書いてしまうからです。
内容も本人の感覚で書かれがちで、第三者が読んで明確に理解できない部分が残ることが多いのです。これに相続特有の感情の問題が加わると、些細な表現の違いが大きな対立へと発展してしまいます。遺言書は「残せば安心」ではなく、「残し方を誤ると不安の種になる」という現実があります。

トラブルを減らすなら公正証書遺言が妥当

相続人間のトラブルを減らすためにも、公正証書遺言が妥当だというのが税理士としての見解です。公正証書遺言は、公証人が関与して本人確認や意思能力の確認を行い、書き方の不足もその場で修正できます。
現場で揉めやすいのは、遺言の「解釈の余地」が残るときです。自筆証書遺言だと、書きぶりが曖昧だったり、財産の漏れがあったりして、結局は遺産分割協議に逆戻りすることがあります。
公正証書遺言なら証拠能力が高く、検認も不要です。手間や費用はかかりますが、残された家族の負担や争いの可能性を考えると、結果的に一番堅い選択になります。

【著者プロフィール】長野拓矢(ながのたくや)|長野拓矢税理士事務所 所長
税理士として10年以上のキャリアを有する資産税の専門家。
「家族がもっと幸せになるために相続という場面では何をしたらいいか」そんなお客様の想いに寄り添った対応を心掛けると共に、最新の税制のキャッチャアップを常に行い専門家として何ができるのかを常に考え続けている。
相続だけでなく事業承継にも精通しており、地域経済を担う中小企業の経営者向けに自社株式の承継コンサルを多数行ってきた実績が評価され、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)の専門家としても長年従事している。
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