相続税事例(相続時精算課税制度を生前に活用していた場合)

相続税事例4
こんにちは。
税理士の長野です。
今回も、私が相続税申告のお手伝いをしたケースについて、論点整理をしながら、簡潔に、ご紹介させて頂きます。
実際の事例を通じて、皆様の将来的な相続に備える一助になれば幸いです。

※個人情報が漏洩しないよう、家族構成や財産内容は脚色しているので、予めご了承ください。
【家族構成】
被相続人:父(91歳)
相続人:母(89歳)、姉(62歳)、相談者(60歳)
【財産構成】
土地:1,700万円
家屋:300万円
有価証券:1,100万円
現預金:1,400万円
合計:4,500万円
家族構成4

グラフ4

【相談内容】
父に相続が発生したため、相続税申告のご依頼
【ニーズ】
姉が数千万円の贈与を10年くらい前に親から贈与を受けている。
相談者4

姉が10年前に家を買うときに大金を親父から贈与してもらっているはずだ。

【論点】

今回の相談者は申告期限が残り数ヶ月というタイミングで直接お問い合わせ頂き、ご依頼頂きました。
自分たちは財産がそんなに無いから相続税はかからないと思っていたそうですが税務署から相続税申告の案内用紙が届き不安になって連絡をくれました。
初回面談で財産内容をヒアリングさせて頂くと、上記内容の通りでしたので、

「ギリギリ基礎控除以下になりそうなので、申告しなくても大丈夫そうですね」

と話していましたが、ヒアリングを続けると、どうやらお姉さんが自宅を購入するタイミングで数千万円も、親からお金をもらっているそうです。
このとき、実務でよくあるのが、親からお金をもらったけれど、特に税務署には何も申告せずにそのままになっているケースです。
今回もその恐れがあるので、

「念のため、お姉様と直接お話させて頂いてもよろしいでしょうか」

と尋ねたところ、ご了承下さったので、後日、改めてお姉様に確認しました。すると、

「当時はちゃんと税務署に何か特例を使って申告をした覚えがある。ただし、もう10年近く前のことなので、家の中を探したが提出書類は見つからなかったのでどうしたらいいか」

とのことでした。
お姉さんは提出書類を紛失していたのでご不安だったかと思いますが、税理士の私としては税務署に提出していることが分ければ一安心です。なぜなら、税務署に提出履歴が保管されているからです。そして、数千万円の贈与の特例といえば、相続時精算課税制度が考えられます。そのため、管轄税務署に連絡し、内容の確認ができました。
その結果、平成21年に4,000万円を贈与し、うち3,500万円を相続時精算課税制度により贈与していたので、相続財産に3,500万円を加算し、なんとか申告期限ぎりぎりに申告ができました。

【長野拓矢税理士事務所からの対応方法】

一般の方々にとっては、相続時精算課税制度という言葉は耳慣れないと思います。
そのため、税理士から相続の際に、

「過去に相続時精算課税制度を使ったことがありますか」

と専門用語を使って質問されても分かりません。そのため、

「よく分かりません」

と答え、それを税理士も真に受け、そのままスルーしてしまって申告してしまうことがあります。そして、その後、税務署から税務調査にて指摘を受け追徴課税されるというのは、相続時精算課税制度では時折見受けられる失敗談です。
これに対して、例えば、

「1,000万円以上多額の贈与をお父さんがしたこと、お客様がもらったことはありませんか。また、他の親族の方は如何でしょうか」

といった聞き方のほうが一般の方々には連想しやすいのではないでしょうか。
このように、お客様の立場に立って税理士も言葉を選び、もし伝え方が難しくその後問題になればそれは税理士の責任だと、私は思っています。
そして、この相続時精算課税制度の悩ましい点は、相続時精算課税制度を適用した人だけでなく、相続時精算課税制度の適用を受けていない人にも相続税が発生することです。
例えば、今回の案件では、小規模宅地等の特例及び配偶者の税額軽減を適用して相続税はかかりませんでしたが、小規模宅地等の特例及び配偶者の税額軽減を適用しないという前提でしたら、下記のように相続税が合計350万円も発生します。
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基礎控除以下だからと相続税の申告をせずに安心していたのも束の間で、税務調査が入り「相続税を350万円払いなさい」と指摘されたらと思うと恐ろしいですね。
なぜ、相続時精算課税制度を使っていない相続人まで相続税が発生することになるかといいますと、相続税の計算は、全ての相続財産に応じて相続税額を計算し、計算した相続税額を各相続人が相続した財産金額に応じて按分するという計算方法になっているからです。
そのため、税理士が、

「滅多に相続時精算課税制度は使われないし、自分も実務で利用しないからヒアリングしなくても大丈夫」

と思い込んでしまったら、今回は追徴課税されていたヒヤッとする案件でした。
長野拓矢税理士事務所は、お客様にとっては細かいと思われることもヒアリングしております。後々、税務調査でお客様に迷惑をかけないためですので、どうかご了承ください。

【ここがポイント!】

余談ですが、さらに今回は相続時精算課税制度以外の特例制度も2つ利用していました。
(ここから少し専門的になるため読み飛ばして頂いても大丈夫です)
1つは、平成15年~21年の特例だった「相続時精算課税制度の住宅上乗せ特例」、もう1つは、平成21年に創設されその後令和まで続いている「住宅取得等資金贈与の特例」です。

そもそもですが、住宅というのは、国の景気指標の1つとなっておるため、景気の動向によっては、国が税制面から支援しています。そのため、特例制度によっては、数年間だけ使えたり、特例の対象となる金額が増減したりします。

そして、今回、適用した上記2つの制度です。
まず、「相続時精算課税制度の住宅上乗せ特例」についてですが、こちらは大前提として、言葉通り、相続時精算課税制度の上乗せ特例です。そのため、通常の相続時精算課税制度と同じように相続時には相続財産に足し戻しとなります。金額としては、通常の2,500万円の枠に、さらに住宅の場合は今回の特例を使うことで1,000万円上乗せができました。
次に、「住宅取得等資金贈与の特例」です。こちらは、上記とは異なり、贈与されたらそこで完結します。つまり、贈与者に相続が発生しても足し戻しにはなりません。金額としては、平成21年は500 万円の非課税枠でした。
余談ですが、このとき、住宅取得等資金贈与の特例が創設され今に至ります。当初は非課税枠が500万円でしたが、平成22年には一気に非課税枠が1,500万円に拡がり、政府もリーマンショックの影響による景気対策に必死だったことが伺えます。

今回の案件に話は戻りますが、生前に贈与した金額が4,000万円に対してどのように特例が使われていたか整理します。
まず、4,000万円のうち「住宅取得等資金贈与の特例」により500万円は持ち戻りされないため、控除すると残り3,500万円です。
次に、この残額3,500万円に、通常の相続時精算課税制度の枠2,500万円と、「相続時精算課税制度の住宅上乗せ特例」1,000万円の合計3,500万円を適用していました。

以上より、今回の案件では、贈与した年は、下記の3つの特例を適用し贈与税はかかっていませんでした。
①通常の相続時精算課税制度2,500万円
②相続時精算課税制度の住宅上乗せ特例1,000万円
③住宅取得等資金贈与の特例500万円


そして、何度も申し上げますが特例制度によって、相続財産に足し戻しされるかどうかが異なります。
上記③は非課税特例なので足し戻しされませんが、上記①はもちろん、②は相続時精算課税制度の上乗せ特例です。
そのため、今回は、合計3,500万円を相続財産に足し戻しして相続税申告を行いました。
今回の案件を通じて、税理士は、今現在適用される制度だけでなく、過去の制度まで理解を深めていないと相続のプロとはいえないと実感しました。
名義預金と判断することは難しい!
①贈与財産を相続財産に足し戻し
②贈与時の税金を相続時に控除
③相談者だけでなく相続人全員に確認すること
さいたま市・大宮で「相続」に悩んだら、まずは、長野拓矢税理士事務所(048-779-8512)までお気軽にご相談ください。分かりやすく親切丁寧にご対応させて頂きます。

【著者プロフィール】長野拓矢(ながのたくや)|長野拓矢税理士事務所 所長
税理士として10年以上のキャリアを有する資産税の専門家。
「家族がもっと幸せになるために相続という場面では何をしたらいいか」そんなお客様の想いに寄り添った対応を心掛けると共に、最新の税制のキャッチャアップを常に行い専門家として何ができるのかを常に考え続けている。
相続だけでなく事業承継にも精通しており、地域経済を担う中小企業の経営者向けに自社株式の承継コンサルを多数行ってきた実績が評価され、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)の専門家としても長年従事している。
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